乳幼児期(0~6歳)の発達支援で大切なことはすべての子どもに共通しています。それは「養育者との愛着関係が良いものである」ことです。この「養育者との愛着関係」を築くことをむぎのこではとても大切にしています。
愛着関係とは?
愛着関係とは、養育者と子どもが深いところで繋がっているこころの絆のことです。愛着関係がよいと、子どもは自分自身は養育者から守ってもらえる存在であるという安心感や安全感を持てるようになり、自尊心や探求心が芽生えるきかっけともなります。また特定の大人と愛着関係を持つことによって、普段接することのない大人、たとえば遠くに住むおじいちゃん・おばあちゃんや、養育者の友達、保育園や学校の先生なども信頼できるようになり、少しずつ愛着を持つ対象が広がってきます。このように養育者や周囲の大人との愛着関係が築けるようになると、子どもは自分自身は、信頼と安心をもって生きていけるのだという自信にも繋がるのです。この土台を作り上げることが、その後の成長発達に大きく影響するのです。
愛着関係を築くうえで大切なことは?
乳幼児期は子どもが養育者へ甘えること、そしてその甘えを養育者に受けとめてもらえるということが大切です。甘えを受け止めてもらえることで、「生まれてきてよかった」「自分は価値ある存在なのだ」と思うことができ自信につながります。そのため子どもは、大人に甘えが受け入れてもらえているかどうかをよく確認しています。発達に心配のある子どもの愛着形成は時間がかかりますが、養育者だけで頑張るのではなく、みんなで子どもと家族を支えていきます。
困り感のある子どもの発達支援において大切にしていることは?
困り感のある子どもの発達を支援するときは「個人を尊重すること」と「肯定的にかかわること」をとても大切にしています。子どもを訓練するのではなく、子どもが日中の活動をいかに楽しめるかということを重視しています。日本でいち早く発達支援と子育てとの関連を大切にした鳥取療育園の北原先生は、次のように語ってくれました。
- 1. 笑顔をもっと多くしよう。
- 2. もっとしたいという意欲を育てる。
- 3. 成長発達のために達成感を多くしよう。
それまで医療的な治療が多かった日本において、子どもたちと向き合ってきた北原先生の言葉です。もちろん子どもの困り感を解決していくための専門的な分析(アセスメント)や障害の特性に合わせた支援も大切です。むぎのこにも子どもに関わる専門家(OT・PT・ST・心理・保育士・教員等)がたくさんいますが、しかしこの心を忘れてはいけません。専門家は治療的なかかわりをするのではなく、遊びを工夫して楽しい毎日を過ごせるようにトータルで発達支援を行います。そして何より「肯定的にかかわる」ことが重要です。
その上で子どもの特性や強み、困り感を把握し、今この子に何をしたら最適で、どんな介入が適切で、どう接すれば良いかを考え、遊びや生活を通して支援をしていきます。
「個人を尊重すること」「肯定的にかかわること」の次に来ることが教えること(teach)、導くこと(instruct)、良く子どもを見ること(monitor)、勇気づけること(encourage)です。このTIMEという考えかた基礎として、生活スキルなど、社会で自分と周りの人たちが、心地良く過ごしていくために必要なことを子どもたちに伝えています。また人間関係のほかに音楽や自然と触れ合うことも大切にしています。多くのこころの傷と向き合ってきたトラウマ治療の第一人者であるバンディアコークさんも、子どもには自然や広い空間、音楽、そして優しい人間関係が必要と講演で語っていました。むぎのこではここちよいリズムに昔からつたわる言葉をのせたわらべ歌や、音楽にあわせて体を動かすリズム体操、また自然を感じながら走り回れる外遊びなど、子どもたちも大好きなことを毎日の療育に取り込んでいます。
学齢期の支援において
大切にしていることは?
お腹のなかから生まれてくることを第一誕生とすると、学齢期はあらたな世界に出会う第二誕生と言われています。学齢期は養育者と距離を持ち始める時期のため、養育者との関係に加えて友だちや他の大人との関係づくりを大切にしています。
学齢期では、たくさんの壁に直面し乗りこえることで、また自分を受け入れてくれる友達や先生とともに様々な経験をすることで一人のひととして成長する時期です。一方で学齢期は劣等感を持ちやすい時期でもあります。自分自身ではプロセスできないほどの不安や困り感をかかえ、学力不振におちいったり不登校になったり、家庭内で暴力をふるったり非行に走ったりと、最終的には自分自身がつらい思いを抱え込む場合も少なくありません。そのような中で、やはり養育者の存在は引きつづき重要です。学齢期になると直接的にかかわることは難しくなってきますが、見守ったり相談相手になったりする存在としての養育者はとても大切です。また、自分自身が自己肯定感を持てるように、友だちや養育者以外の大人と信頼関係を築きあげることができるような環境づくりも重要です。自己肯定感を高めるための関わり方は一人ひとりもちろん違いますが、学習や生活・運動などにおいて「できないと思っていたけれども、もしかしたらできるかもしれない」という「ポジティブなイメージ」を子どもが持てるようになる支援を大切にしています。学齢期の仲間は、自立に向かうなかで生じる葛藤を支える「心のクッション」となるとても大切な存在です。学齢期は、このことが念頭に置かれた自立に向けた支援が求められています。
また、社会自立に向けてや、人と楽しい時間を過ごすために「社会スキル」も重要視しています。アメリカのネブラスカ州に、ボーイズタウンという社会的な養育を担い、子どもを自立へと導いているファミリーホームが中心となった児童福祉施設があります。ボーイズタウンでは社会スキルを大切にしていて、アメリカは個人主義で自由の国であるにもかかわらず、子どもの社会性を育てる基本を「指示に従う」「ノーを受け入れる」「許可を求める」「挨拶をする」「ごめんなさいが言える」「落ち着く」としていました。
人を信頼でき安心を感じる環境の中では、他者からのアドバイスは苦痛なのではなく、むしろアドバイスに従えることは自然なことなのです。ただしそれは誰にでも従うというわけではなく、自分を大切にしてくれる存在に従うということなのだと思います。それが例えばクリスチャンのみなさんにとっては、「人」ではなく「神さま」に従うという感覚なのでしょう。もちろん他者からのアドバイスや意見に対して反対するスキルも重要で、ボーイズタウンでも大切にしています。
また教える大人の責任もありますね。大人にとっても大切にしてくれる存在に従うことや、自分の感情を適切にプロセスすることはとても大事なことです。これも小さなころからの人との信頼関係の積み重ねだと思います。